縫師(ぬいし)…川村刺繍 川村定弘さん
川村定弘(かわむらさだひろ)さん/川村刺繍 代表 1978年、姫路市大津区生まれ。現在、同区在住。2000年、父である川村雅美師に入門。父・雅美師が開業した「川村刺繍」で、播州に伝わる刺繍の技法を用い、2010年以降は、龍や虎等の顔、人物の顔などを本格的に製作している。 |
姫路市大津区にある屋台や太鼓台の装飾刺繍が専門の、川村刺繍さん。屋台の太鼓打ちが座るところにかかっている「高欄掛(こうらんがけ)」や屋台の上部を飾る「水引幕」、動くたびに揺れる「伊達綱(だてづな)」の他、屋台で太鼓を打つ人が身にまとう豪華な衣装「乗子襦袢(のりこじゅばん)」などの祭礼用衣装も製作しておられます。
手縫いにこだわった迫力、豪華さ、優美さを備えた刺繍は播州の祭りに欠かせないもの。その伝統を守り継いでおられるのが、川村刺繍さんなのです。
「播州のお祭りを見たことがない」という方は、屋台のどの部分の名称なのかが分からないと思うので…こちらの写真をご覧ください。
*写真は、名称を説明するために使用しています 播州の秋祭りを体験したことがある、という皆さん。あのきらびやかな刺繍を目にした瞬間、ため息がこぼれませんでしたか?私は、屋台の休憩時にあの高欄掛をじーっと見るのがとても好きです。そして、いつも思うのです。「こんなに素晴らしい刺繍を仕上げるには、どのくらい時間がかかって、どのくらいお金がかかるんだろう」と(笑)。
そして…突然ですが、ここからは職人さんへのインタビュー!川村さんには、最大の関心事であった高欄掛に関する疑問からぶつけてみました。
Q)さっそくですが、高欄掛を完成させるまでにかかる時間と費用について、教えてください! ( 以下、Qが秋祭りメンバーです)
川村さん)具体的な数字は言えませんが、なんせ高いです(笑)。制作期間は、高欄掛けだと1年くらいかかります。すべて、手作業です。
Q)最初からお金のことを聞いて、すみません!ずっと気になっていたもので(笑)。このふっくらした刺繍って、どうなっているんでしょう?めちゃくちゃ立体的ですよね。糸も、普通の刺繍糸とは違う気がします。
川村さん)和紙に図柄を写して、綿を縫い付けます。そして、金糸や赤糸など縫い付けるんです。ここで大事なのは糸撚り(いとより)。糸屋さんに作ってもらった特別な糸を撚り合わせることで、色合わせの微妙な表現が違ってくるんです。
「撚る(よる)」というのは、ねじり合わせること。“腕によりをかける”とか、“よりを戻す”って言葉、ご存知ですよね?日常会話の中で使われている「撚り」(縒り、とも書きます)は、糸の「撚り」が語源なんです。
蚕から取れる糸は細いので、そのままでは糸として使えません。それを何本か束にして軽く撚りをかける(ねじる)と、丈夫な1本の糸として使えるようになります。さらに、太さが異なる糸を撚り合わせたり、回転をかけたりすることで風合いや肌触り、丈夫さが違ってくるんですよ。
Q)この眼、すごいですね!迫力があります。
川村さん)この眼1つにも、職人の技術が詰まっています。吹きガラスで作るんですよ。目玉のガラスは吹きガラス使用しますが、ガラスを半分に切る技術を持った職人さんに作ってもらっています。
Q)お客様は、どんな風に注文されるんですか?「かっこよくしてくれ!」とか「あの村より目立つように!」とか、そういうオーダーもありますか?
川村さん)オーダー方法には「復元加工」と「新図案作成加工」があります。復元加工は、もともとの見本や村が持っていたものを参考に復元するものです。昔は復元加工が多かったんですが、今は「よそにないものを」を求められることが多いため、新図案作成加工が増えてきました。
デザインは、魔除けとか疫病よけとか、テーマに沿って図案を描きます。色んなオーダーにお応えするため、日々、様々な文献を研究しています。
Q)「迫力があるトラと龍とこれとこれと、全部のせ!」みたいな感じの、どうしようか困ってしまうオーダーは来ないってことですね? 川村さん)日本の文化には、図柄の取り合わせが決まっている場合があります。
例えば、竹に虎、獅子に牡丹などです。なので、組み合わせなどが、おかしい場合にはお伝えしています。
川村さんの工房には、図案や昔の本が所狭しと並んでいました。和紙に下絵を描き、それを手縫いで仕上げる。工房には12人くらいの縫い子さんがおられて、それはもう丁寧に、丁寧に仕上げるのだそうです。手縫いにこだわるところが少ない昨今、想いや伝統に培われた技術と誇りを守っておられる川村さんはすっごく素敵だなぁと思いました。
【参加者の声】
●祭り大好き女子 ヒロコさん
デザイン案を手漉き和紙に書き込み、絹糸をベースに太さや金糸、赤糸、緑糸などを使いながら、すべて昔ながらの手作業で行っている。立体感を出すために、最初に綿を入れ、そこから縫う。それらを組み合わせると、あんなにも立派で迫力のあるものができあがる…
見えないと分かっている部分であっても「縫います」という言葉には、どの位置から眺めてもいいように、隙間に光が入ってもいいように、などの配慮がちりばめられていて、職人だなぁと(川村さんの「縫います」の真意は、分からないのですが。笑)。ひと針ひと針縫っている姿を見ながら、命が吹き込まれてるんだなぁと感じました。ちなみに私は、屋台練りの際の伊達綱の揺れが、たまらなく好きです!
●職人を目指す、中3の陸くん
考古学に興味があるので、年季の入ったたくさんの資料に驚きました。僕が乗り子をさせてもらった時、華やかな刺繍がしてある衣装を着せてもらうととても気持ちが引き締まり、夢のような時間だったことを覚えています。これからは屋台本体だけでなく、刺繍された衣装も合わせて祭りを楽しめると思うので、来年が待ち遠しいです。
Comments